君へ

あの事故があって以来余計ひとが嫌いになった。
特に男はだめだ。
悲鳴をあげてばかりでは余計痛め付けられるだけなのは分かっていた。
なので退院したばかりの頃は何度舌を噛んだり、掌に爪をたてたりして悲鳴や恐怖を押し殺しただろう。
殺せずに漏れた悲鳴を聞き付けてあの人にはよく殴られた。
だからこの男が近寄ってきてかばん持とうかと言ってきても体が震えないように腕を押さえながら首を振った。
「可愛いねぇ~その反応が堪らないんだよねぇ」
冗談ともつかない声を聞いて更に鳥肌がたつ。

「わ、私帰ります。さようなら」
治ったと思ったのに、今だに緊張したりするとどもる。
強くなくていやだ。
私は返事も聞かずに足早にその場を去る。

「あ、待ってよ相良さぁん」

粘りつくようなその声が嫌いだ。

彼とは違う少し茶色く見える髪も、目元のほくろも嫌いだ。
彼は、黒い綺麗なさらさらの髪で切れ長な知的な瞳だけど笑うとすごく優しくなる。

でも、私の記憶は小学生で止まったまま。
成長はしない。


見たこと無いから。
怖くて想像すら出来ない。
だから生徒会長が隣に立って見下ろされると、彼もこれくらいの身長になったのかなと想像して余計悲しくなる。



悲しくて、感情が乱れて足早に歩いていたらいつの間にか家の近くに着いてしまった。

更に気分が重くなる。
あの人は家にいるのだろうか?
それとももう飲みに出掛けただろうか?
一瞬足が竦み立ち止まりそうになるが、この生徒会長とも側に居たくない。
仕方なく歩み続ける。
なんだか隣でずっと喋っていたが耳に入らなかった。

「ではこちらで。ありがとうございました」

家の門に近付き、早く離れたくて挨拶する。
でも生徒会長は帰ってくれなくて、門に手をかける。
「相良さん家って父子家庭なんでしょ?今家に誰かいるの?」

そんな事は私は知らないし、むしろ私が教えて欲しいくらいだけれどもなんなんだろう?
この図々しい生徒会長は…?


「誰もいないなら…」

生徒会長が更に身を乗り出してくるのと同時に玄関のドアがキィと嫌な音をさせながら開いた。
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