キミに触れたくて。


私は、学校が施錠されるまで絵を描いていた。


勿論、先輩達も一緒だった。





ある日、先生が


「七瀬、うまいよなぁ。あいつらと一緒に、石膏像描いてみるか?」



私は嬉しくて、即答した。




モチーフは基本、先生が選ぶのではなく、生徒が自由に構成していた。


そして、今回のモチーフは、顔のない石膏像に、ストールを巻いたもの。




石膏像の首がなぜないかというと…

新潟県中越地震の影響だ。

この学校のある地域は、震度6弱であった。


幸い、そんなに被害がでない地域であったが、石膏像がその揺れの大きさを語っている。




「お前ら、七瀬初めてなのに、難しいモチーフ選んだな。よし、元輝!七瀬の教育係だ!」



「えー?!俺っすか…」


困った顔をするのは、甘い香りのする男だった。


ここで初めて『元輝』という名前だとわかった。




「よろしくお願いします…」

少し目付きが鋭く、180cm近くあるスタイルの良さにようやく気付く。

近づきにくいオーラを放っていたので、私は恐る恐る話し掛けた。


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