キミに触れたくて。
美術室に行くと、また甘い香りが残っているだけで、先輩の姿はなかった。
その代わりに、ホワイトボードに落書きがしてあった。
先輩が描いたものだった。
みんなの似顔絵が描いてあって、ものすごく似ていた。
しかし、私だけは後ろ姿で描かれていて、右手にテニスラケットを持っているだけだった。
中谷さんは描きやすい顔なのか、怒った表情がすごく似ていた。
それを眺めていると、さっちがやってきた。
「あ、これもしかして…元輝君が描いたやつ?ウケるー。」
(え…元輝君?)
私は耳を疑った。
私は元輝先輩と呼んでいるのに、親しく話しているのを見たことがないさっちが『元輝君』と呼んでいるのが、納得いかなかった。
「私、この絵欲しいなー」
私がつぶやくと、さっちは
「私も欲しい!」
と言ってきた。
火花が散った瞬間だった。