天使はワガママに決まってる

信じられない。
まさか笑ってるだなんて。


私は目を見開いた表情そのままに
咄嗟に顔を上げた。

すると、そこには眉を垂れ下げて笑う夜久くんがいて、
思わずその顔に見惚れてしまう。


やっぱり、

私は彼の笑顔の全てが好きだ。



「ごめん。」
「え、ぇ?!」


唐突に謝られて、私はまた素っ頓狂な声を上げた。
もうさっきから恥ずかしくて仕方がない。
穴があるなら入り込みたい。


「何、で謝るの…?」
「俺、口下手でさ……。
 面白くない奴で、ごめんな。」


困ったように笑う彼を、ただぽかん、と
口を開けて見つめるばかり。
また、体温が上昇していく。


そんな茹でダコ状態の私をよそに、
夜久くんは再び前を見つめた。

私はゴクリと生唾を飲み込むと
震える手を握りしめて、小さく口を開く。


「ううん?!わ、私こそ……
 ほんと、暗くてめちゃめちゃで、
 天邪鬼で…っ」


折角、言葉を発することができたのに
自分でも何を喋ったのかイマイチよく分からなかった。

それでも夜久くんは私の言葉に、
振り向いてくれる。


半年前にこんな想いに気がついても
声をかけることさえままならなくて。

その彼と一緒に帰っていることだけで、
私は幸せの絶頂にいる。


のに、


その夜久くんが今、私に微笑みかけて
くれているんだ――…




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