天使はワガママに決まってる
きっと莉奈は、俊くんの私に対する気持ちに
気が付いていたんだ。
でも……嘘をついてでも、彼を手に入れたくて。
それほど、俊くんが好きだった。
私は、何をしていたんだろう。
2人の気持ちも何一つ知らないまま
みんなそれぞれ苦しんでいたのに。
今、この”チャンス”を利用して
俊くんの手をとるのは容易い。
私だって彼を好きな気持ちに偽りはない。
でも、
今となってはもう
祐唯を裏切るなんて出来ない。
私ばかり楽な道を、幸せな道を掴んでしまったら
私と莉奈の関係はどうなるのだろう。
「で…俊、お前はどーすんだ?」
「別れたのはいいけど……柚子に告白すんのか?」
あぁ、と俊くんは頷いた。
「そのために別れたんだ。」
その言葉に、揺らぎはなかった。
「大体さ、莉奈の言ったことは嘘だよ。
柚子が…有明と付き合い始めたのは、お前らが付き合ったすぐ後だからな。」
「それも、最近知った。」
「知って…別れたのか?」
「……まぁな。」
そか、と1人の男子が呟いた。
しばらくの沈黙の後、キュッと上靴が床で擦れる音がして
2人の影が揺らぐ。
「じゃ…俺ら帰るわ!」
「おう…悪かったな。」
「お大事にー!頑張れよ、俊!」
ベッドの前から影が消え、
遠ざかっていく音がした。
今この保健室には、私と――俊くんしかいない。
ドクドクと波打つ心臓の音が
やけに大きく聞こえる。
私は、どうすればいいんだろう?
そう考えたとき、結局は一つの考えに行き着いた。
私ばかり、守られて愛されてるばかりみたいで
そんなのは――嫌だ。
私には、今、
愛してくれる人がいるから。