天使はワガママに決まってる
別に莉奈に気を使うことなんてない。
たとえ私が俊くんと付き合っても
莉奈は笑ってくれると信じてる。
でも、どうしてだろう莉奈。
私、いらないことしようとしてる。
あんな莉奈の顔を見て
俊くんと付き合うだなんて――そんなこと、出来ない。
無意味に息を潜めていた私は、
グッと拳を握りしめた。
言ってやらなきゃ。
俊くんに。
――”どうして莉奈をフッたの?”って――
納得できない。
もし俊くんが本当に私を好きだとしても、
親友の莉奈の想いを踏みにじるような、
そんな行為は許さない。
さっきカーテンの向こうで聞いたはずの事実を
私はこの傷をえぐるようにまた確かめようとしていた。
きっと今、ここから飛び出して
言いたいことが言えるなら、
私の心は晴れるんだろうな。
でも、やっぱりどこかで彼のことを諦められない気持ちが
まだ私の心の中で勝ってる。
そんな自分が――また嫌になった。
「俊くん……っ!!」
「え…?!」
頭の中ではもんもんと色んなことを考えていたのに
気がつけば私はカーテンを握りしめ、全開にしていて。
布という壁があった私と俊くんは今、
何も隔てず、向かい合う。
目を見開いた俊くんは、
口をぽかんと開けて私を見ている。
――それもそうだろうな。
いきなり私が叫んで飛び出してきたのだから。
飛び出したはいいものの、私は私で
第一声を失っていた。
「ゆ…柚子…?!」
「え、あ…」
ベッドに半分横たわっていた彼は、
ゆっくりと上半身を起こした。
その額には汗が滲んでいて、辛いのが見てとれる。
そんな俊くんの姿を見た私は
一体何を言おうとしていたのか一気に飛んでしまって。
久しぶりに向かい合えた嬉しさが、
情けなくも込みあがってくる。