天使はワガママに決まってる

「おま…っ、ずっとそこにいたのか?」
「う…うん。」
「そか…。」


カーテンを握りしめたままの手に、無意識に力が入る。
対する俊くんは、
辛そうなのにふっ…と微笑んでくれた。


「久しぶり…だね、」
「あ、あぁ。」


一言交わすたびにまた湧きあがってきそうな思い。
諦められるわけない。
でも、でも――


「柚子…もしかして、」


「さっきの話…聞いてたか……?」


ほんのりと赤くなる俊くんの頬。
そんな彼の顔を見て、
あぁ私を好きだと言った気持ちは嘘じゃないんだ、なんて
実感してしまった。

少しの沈黙の後、
彼の質問を軽く無視して
私は小さく息を吸い込んだ。


「ねぇ、俊くん。」
「え?」


「何で莉奈と別れたの?」


その瞬間、空気が一気に凍りついたような気がした。

私を見つめる俊くんの瞳は確実にうろたえている。
バクバクと高鳴る心臓は、どんどん早さを増していった。


「莉奈は、本気で俊くんのこと、好きだったのに。」


この後、どうなるかなんて考えずに。
例え俊くんが私を好きだとしても、
私は――莉奈を、そして裕唯を裏切ることは出来ない。

二人の優しさに甘えて、
私だけ幸せになるなんて――不可能で。


「だからそれは、」


言葉を詰まらせ、下を向く俊くん。
じっ…とその顔を見つめたまま、
私は微動だにしない。
今は、自分でもよく分からない怒りが湧きたっていた。


「今日、莉奈来てないんだよ…?」

「莉奈は…っ、本気で、本気で…!!」


「俊くんのことが好きだったのに!!」


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