天使はワガママに決まってる
人間ほど、酷な生物はいないと思う。
ちょっとしたしがらみでさえ捕らわれて
気が付いたら抜けだせなくなっているんだ。
俊くんを好きな子が莉奈で、
莉奈と私は親友で。
俊くんは私のことが好きで、
祐唯も私のことが好き。
そして――私はどうなのだろう?
あれだけのことを言っておいて、
こんなにも目を涙で泣き腫らして。
今の姿を祐唯が見たら、きっと驚いて私を抱きしめてくれるんだろうな。
いつだって優しかった祐唯に
私は、俊くんの姿を重ねていた。
「最低だ……っ!」
保健室から飛び出した私は、
止めどなく溢れる涙を拭おうともせずに
とにかく走っていた。
まるで保健室から、俊くんから逃げ出すように。
息が切れて、足に疲労がたまる。
とうとう走れなくなった私は、
廊下の壁に手をついて荒い息を整えた。
そしてそのままズルズルとその場にしゃがみ込む。
幸い、周囲には誰も人の気配はなかった。
そこで私は、ブレザーのポケットに突っこんだ携帯を握りしめる。
今、この決意が揺らがないうちに言うんだ。
俊くんのことは、好きじゃないから。
私には、祐唯がいるから。
「ハァ…っ、はぁ…」
少ないアドレスの中から
慣れた手つきで手を進める。
少しだけ躊躇って、私は意を決し通話ボタンを押した。
(出て…莉奈―…!)
プルル…ルル…
中々通じない電話の向こう。
9回コールしたところで、もう駄目かと諦めかけたが
突然音が切り替わって、人の気配が感じられる。
そして、ズズッと聞こえる
鼻をすする音。
「……莉奈…?」