天使はワガママに決まってる
恐る恐る、声をかける。
震えそうな私の声は、きっと莉奈には届いたはずだ。
しかし、彼女は中々言葉を発しなかった。
「莉奈…?私だよ…柚子。」
『……っ、』
「莉奈…、」
か細い泣き声は聞こえるのに
返事は無い。
私はじっ…と彼女の声を待った。
「り、」
『何……?』
「莉奈っ!」
ようやく聞こえてきた言葉は、
いつもの莉奈ならあり得ないような
暗くて――寂しい響きを持っていて。
彼女の名前を叫んだものの、何と言いだせばいいのか分からない。
「あの…『あのさ。』
ここまできて戸惑う私に、
鋭く刺さるような口調。
まるでそれが別人のようで、思わず口を閉ざしてしまう。
『誰かから、聞いたの?』
「え――…」
『俊の気持ち。』
ごくりと音がして、生唾を飲み込む。
単刀直入すぎる思わぬ展開に
言葉を詰まらせてしまう。
黙った私に「やっぱり」と電話の向こうの莉奈は呟いて
小さく溜め息を吐く。
「き…聞いたよ…。俊くんから。」
『そっか。』
「うん、偶然、だけど。」
私から電話しておいて、何も言えないだなんて
あまりにも情けない。
しかし莉奈が莉奈ではないみたいで、
どうしても普段通りには振る舞えなかった。
「ねぇ、莉奈…」
『ごめん、柚子。』
「え…?」
『あたし、柚子に嘘ついてた。』
『俊の気持ちも、柚子の気持ちにも気づいてた。』
突然の莉奈の告白。
私はただ黙って莉奈の言葉に耳を傾ける。
でも、と彼女は言葉を続ける。
『それでも…あたし、俊が……!』