天使はワガママに決まってる
「ご…ごめんなさい、先輩…」
 

片足で立ちあがり、申し訳なさそうに軽く頭を下げる。
今日は本当に久しぶりで…恐らく最後のデートなのに。
自分の不甲斐なさに何だか涙が出そうになった。
彼は待たされるのが嫌いなのだ。

私の言葉には何も返さず、もう一度左手で私の頭を撫でる。
マフラーに隠された口元は、確かに少しだけ微笑んでいて
思わず見惚れてしまった。


「何見惚れてんだよ。」
「え、うぁ、」


彼はそう言って意地悪な笑みを浮かべる。
動揺を隠せないまま情けない声を発した私。


「…ほらよ」
「ありがと…」


片足立ちの私に、彼はさり気なく後ろにあったパンプスを持ってきてくれた。
そのまま置いてくれるのかと思いきや、
突然私の前に跪いてパンプスを差し出す。


「足。」


困惑して動けない私を急かすように、
靴の脱げた私の片足を持ち上げて、ゆっくりと靴を穿かせていく。
満足げに笑った彼を、私は真っ赤な顔で見つめ返した。


(何か、シンデレラみたい…)


上気した顔からボンッといった音でも立ててしまいそうな私と、
余裕な彼。
この公園に他に人がいなくてよかったと心から安堵し、
今度はちゃんと両足で立つ。


「行くぞ。」
「…うんっ!」


立ち上がった彼は、やっぱり私には届きそうもないくらいに高い。
無意味な8センチのヒールを穿いた私が、滑稽に思えてきた。
でもこうでもしないと、小さい私はいつまでたってても近づけないから。
少しでも大人っぽく、彼に似合う女の子になりたくて。

慣れない靴に痛みだす足を無いものとして、一歩踏み出す。
キスまでの距離は、やっぱり今日も縮まらなかった――

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