天使はワガママに決まってる
そう心の底で落ち込みつつ、
私の少し前を行く彼の隣に、さり気なく寄り添う。
チラッと見上げた横顔は、私の視線に気がついて
軽くこちらに向けられた。
眉間の皺が、一瞬緩んで微笑んでくれたように見えた。
「どこ。」
「え?」
「どこ行きてぇんだよ…」
照れくさそうにマフラーで表情を隠す彼が可愛くて可笑しくて、
ふふっと小さく笑いを漏らす。
普段はこんなこと私に尋ねたりせず、
一人でさっさと歩いていくのに。
彼も今日が特別だって思ってくれているのかな、などと考え
幸せで顔がほころんだ。
「どこでもいーですっ!」
「あっそ…。」
頬を朱に染め、マフラーを握りしめる彼――陽(ヨウ)先輩。
私が16歳、先輩が18歳。
同じ高校の1年生と3年生という関係にある私たちは
学校でしか会える接点がないからか
付き合い始めて1年たっても”先輩”と呼ぶくせが抜けないでいる。
別に呼び方などに興味もなさそうな先輩は、
何も言わないけれど。
一度でいいから――”陽”って呼んでみたい。
「梓、」
「へ――…」
「俺の顔見たままボケッとしてんな。」
「え、ボケッとしてました?」
馬鹿面でな、と先輩は笑った。
意地悪な彼の表情は、本当に格好いい。
赤茶けたふわふわの癖毛に、同じ色の瞳。
華奢な体つきなのに、いつだって私を守ってくれて。
顔だって――一般人のレベルじゃない。
”梓(アズサ)”って私の名前を呼ぶ声も、
耳をくすぐるようで、何度聞いてもゾクゾクする。
…私って結構エロいのかも、なんて。