天使はワガママに決まってる
そんな先輩と出会ったのは、今から丁度一年くらい前だった。
親と喧嘩して家を飛び出した私――その頃は15歳だった――が
夜の街でタチの悪い男たちにナンパされたとき、
助けてくれたのが17歳だった陽先輩で。
ナンパから助けてくれたときの姿は
本当に格好良かった。
後から同じ高校ということを知って、
さり気なく見つめ続けていた。
いつだって先輩は女の人に囲まれてて――しかも美人ばかり。
勝ち目なんてないと諦めていたのに。
入学してから少しして、
珍しく授業をサボった私が屋上に逃れると
そこに陽先輩がいた。
『あ、』
『…お前、あん時の。』
覚えてくれていたんだと、
心が跳ねるような嬉しさを噛みしめつつ
何を言ったらいいのか分からなくて
私は咄嗟に頭を下げてお礼を言っていた。
助けてくれたときは怖くて怖くて、
まともに声を発することなんて出来なかったから。
『その節は…ありがとうござまい、…っ!』
『ハッ…ハハ!何噛んでんだよ…』
ドキドキと心臓は脈打って
立っているのもやっと。
だって先輩だよ?
同じ学校で、会えるなんて――…
『な、俺と付き合わねぇ?』
そう言われたあの日のことは、今でも脳裏に焼き付いている。
ナンパから救ってくれた私をナンパするだなんて。
軽い男だったんだと内心ショックを受けたが
その時の私は何だかおかしくて、
気がつけば夢中で頷いていた――
「…今考えると、俺軽いな。」
「え、あははっ…うん。軽かった。」
出会った時の思い出をつらつらと話していると、
完全に照れた様子の先輩が顔を真っ赤にして呟いた。
思わず私から笑みが零れる。
「もう…1年なんですね。」
「あぁ…。」