天使はワガママに決まってる

少しだけムッ…として黙っていると、
伏し目がちの長いまつげに隠れた彼の瞳が
私の方を向いた。
視線を感じて、私もさり気なく上目遣いで見つめ返す。

先ほど捻った私の足の痛みに気付いているのか、
陽先輩はいつもより歩く速度が遅い。


そんな小さな優しさを、彼はたくさん私にくれたんだ。


私たちの歩く速さが遅いせいか、
周りがより一層早く歩き去っていくように見える。
自分たちの周りだけ、
まるでゆっくりと時が流れているようで。


「最近、ずっと切ねぇ顔しやがって…」
「だって、」


今日のデートもあまりにも久しぶりだから
とても楽しみにしていたが、
これから受験勉強が過熱していく先輩とは
今日が最後のデートだろう。

嬉しさ半分、寂しさ半分。

楽しみたいのに、現実が蘇ってくると
どうしてもブルーな気分になってしまう。


「お前は顔にいちいち出やすいんだよ…」


ジャケットのポケットに突っこんだままだった左手で
面倒くさそうに頭を掻く先輩。
そんな彼を見たら、また不安が押し寄せてくる。


「先輩こそ、自覚ないもん。」
「あ?」


どういう意味だ、と聞き返してくる声を無視して
私は黙り込む。
折角のデートなのに、何やってるんだろ私――…


そのとき、一瞬唇に柔らかい感触が触れた。


「?!」


咄嗟に視線を上げれば、
すぐ目の前に陽先輩の顔。
同じ高さで絡む視線。


「今…っ、き、っきき…」
「罰だ。」


ここがどこだか分かってるのかこの人は!!

周囲は家族連れやカップルで溢れる街。
夕方だからか余計に、人通りは多い。
その中心で、ほぼ立ち止りかけた私たちは
真っ赤な顔でお互いに見つめ合った。

幸い、周りの人々は誰も気づいていないようで
訝しげに私たちを一瞥するだけ。


「自分からキスしたくせに、顔赤くしないでください!」
「恥ずかしいから。」
「もう…っ」

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