天使はワガママに決まってる


何度言っても、こればかりは分かってくれない先輩は
愛おしげに私の頭を撫でた。
嬉しいけれど、くすぐったいその手。

細くて長いその指で私の髪を軽く梳いた後、
先輩の手は無言で離れる。


「別にしてねぇけどー。」


私がそう言うと、先輩は少しだけふてくされたような顔で
右手をいつものようにポケットに入れた。

そのまま、手を繋いでくれてもいいのに
私と陽先輩は、未だに手も繋いだことが無い。

いくら寒がりだからって
ずっとポケットに両手を入れている彼は
そのポケットの中にさえ私の手を交えてくれなかった。

だから私は余計に不安になるのだけれど…


「あ、そこ。」
「へ?」
「あの店。」


赤茶けた先輩の髪が、
徐々に街灯が灯っていく街に照らされて、ふわふわと揺れた。

その髪を見つめて寂しさに浸っていた私は
彼の言葉で、ふとそちらに視線を向ける。

そこには、周りの建物に飲み込まれてしまいそうな
小さなアクセサリーショップらしき店があった。


「アクセサリー?」
「そ。」
「こんなとこあったんだ…。」


店に向かって歩き出す陽先輩についていく。
嬉しくなった私が微笑んで見上げると、
彼は得意げに笑った。


「行くぞ。」
「はいっ」


少しロック系な内装と、ピアスをたくさんつけた
怖そうな店員さんにビクビクしつつ
陽先輩の後ろを歩く。

シルバーアクセサリーを主とした
いかつい装飾品。


(陽先輩の好きそうな店だな…)


私には到底似合いそうもないし、
買い物好き…というわけでもない先輩。
そんな珍しい出来事に、ただ目を丸くした。

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