天使はワガママに決まってる
優しく微笑む先輩に、私の顔もつい幸せで溢れる。
ところが、リングを眺めていた先輩は
突然また私の方を鋭い視線で睨んだ。
「……値段で選んだんじゃねぇだろうな…。」
「へ?値段?」
リングに掛けられていた小さな値札を
目を凝らして見れば、
¥1000と乱雑な字で書かれていた。
リング一つで1000円って…結構する方じゃない?
しかし他のリングを見れば、
¥3000とか¥5000とかはざらにあって、
中には0の数が違うものもある。
陽先輩は怖い顔しながらも
”遠慮するな”と言いたかったのだろう。
誤解を完全に否定するつもりで、両手をブンブンと横に振った。
「いえいえ!ほんとにこれがいいなーって…」
疑っているような、先輩の視線。
背が違うから視線も違うわけで、
上からその顔で見つめられると怖いのなんの。
嘘なんてつけそうな顔じゃないですよ。
「これでいいのか?」
「これがいいんです。」
強く頷くと、何故だか陽先輩はチッと軽く舌打ちして
私が選んだリングのサイズ違いを探し始めた。
その横で既に棒立ちの私は、
悶々と舌打ちされた理由について思考を巡らせる。
(な…なんで舌打ち?!)
怒らせるようなことをしたかと不安で、
思わず背中に汗が流れる。
そのとき、不意に先輩が口を開いた。
「……何のためにバイトしたと思ってんだよ。」
――え、
バイト?
「先輩、バイトしてたんですか?」
純粋に飛び出た私の質問に、すばやくこちらを振り向いた陽先輩は
心底驚いたように目を丸くしていた。
「知らなかった…のか?」
「聞いてませんし。」
その瞬間、先輩ははぁ~と盛大に
気の抜けたような溜め息を漏らした。