天使はワガママに決まってる
まるで、今までの想いが
全部一気に溢れ出てしまったようだった。
小さな雫となった涙は、
徐々に私の制服を濡らしていく。
誰もいない暗闇の歩道で立ち止まった私たちを
通り過ぎていく車のライトだけが照らした。
「ごめ…っ、ごめんね……!」
困ったようにオロオロと、
大丈夫?と声をかけてくれる夜久くんが
とても温かくて。
また涙が溢れる。
もう、最悪…。
引っ込みのつかなくなった感情が
私の今までの想いを全て壊してしまった。
「と、とりあえず、涙を拭かないと…!」
夜久くんはそう言うと、
自分の首にかけていたタオルを取り、
私の涙を優しく拭ってくれた。
「……ぁ…っ」
部活で使っていたものだからだろうか。
そのタオルからは、
汗の匂いに混じって、ほんのりと
夜久くんの制服の匂いと同じ香りがした。
陽だまりのような、
温かい香り。
「男の子の、匂いだ――……」
思わず口から出てしまったその言葉に、
私はハッ、となって
また頬を赤らめる。
ゆっくりと目の前の彼を見上げると、
私の気のせいだろうか――?
口元を片手で覆った夜久くんは、
どことなくほんのりと赤い顔をしていた。
「よる、ひさくん?」
「え…っ、あ――」
それっきり、夜久くんは口を閉ざしてしまった。
日も暮れた道で、二人きり。
なのに、交わされる会話は無くて
ただ私が涙を拭い、鼻をすする音だけが響く。