天使はワガママに決まってる
より一層マフラーに顔を埋めた彼の横顔は
店の暗いライトでも分かるくらい真っ赤で。
…先輩も顔に出やすいというか何というか…
「もしかして…先輩、私にリング買ってくれるために…?」
「バッ……!」
馬鹿じゃねぇの?といつも通り続いた言葉も
いつもより弱々しい。
こんなときの先輩は図星なのだ。
「別に、お前のためでもねぇし。
あー…ホラ、東京行ったら色々金がかかんだろうが。」
苦し紛れの言い訳で、
また顔が赤くなる先輩。
髪の色とマフラーが加わって、顔全体が真っ赤だ。
何だか今までにない陽先輩に、
愛しさで笑いがこみあげてくる。
「あははっ!」
「…笑ってんな……。」
「ごめんなさーい」
「全く悪気ねぇだろ。」
予想以上のツンデレに、笑いが止まらない。
ニコニコ顔の私を一瞥して、
先輩は同じデザインのサイズ違いを見つけ出した。
それを持ち、さっさと早歩きでレジに向かう背中を追う。
イカつい店員さんに思わず後ずさりした私を、
背中に隠すように陽先輩はレジの前に立ってくれた。
「名前は?」
「…”YOU”と”AZUSA”だ。」
「おっけー。ちょっと待ってな。」
何かの合図なのか、
陽先輩と店員さんは
私には意味の分からないやり取りをした後、
リングを持って店の奥へ消えていった。
「ここの店、夜になったらタダで名前入れてくれる。」
私の疑問に気付いたのか、
先輩は少しだけ自慢げに理由を話してくれた。
(それで先輩…今日のデートは夕方からって言ったんだ…)
小さなサプライズにも、私の心は大袈裟に跳ねる。
しかもアクセサリーなんて買ってくれたことも、
先輩からデートの指定をしたことも、今までには無いことで。
余計に今日が特別な物に感じられた。
「ふふっ…!」
「…何笑ってんだよ…。」
「嬉しいだけですー。」
「言うな。恥ずかしい。」
無愛想な顔を、またほんのり赤く染めた彼を
ちらりと見上げては、また笑みが零れた。