天使はワガママに決まってる
――それから数分後、
あのイカつい店員さんが手に二つのリングを持って
店の奥から出てきた。
2000円を支払って、陽先輩がリングを受け取った時、
不意に店員さんと目があった。
強面の顔に似合わず、ニコッと優しく微笑んでくれた店員さんは
レジの台越しに先輩の肩を叩いて一言。
「兄ちゃん、可愛い彼女連れてんな!
大事にしてやれよー!」
「えっ、わ、」
いきなりそんなことを言われて
カチコチに固まってしまった私。
先輩は私の頭に手を置いて、
フッと優しく笑った。
「当たり前だろ。」
そのままスタスタと歩き、店を後にする。
出ていく間際で店員さんを振り返れば、
「ありがとうございましたー!」と両手を大きく振る彼の姿があった。
……人は見かけに寄らないな。
外に出ると、すっかり日は落ちて
先ほどよりも人の数は多くなっていた。
「…ん。」
小さく声を掛けられて、反射的に左手の手のひらを差し出すと
そっちじゃねぇ、なんてぶっきらぼうに言われ
クルッと手をひっくり返された。
「手のひら出してどーすんだよ。」
「あ…そっか。」
しかしそのままリングを嵌めてくれるのかと思いきや
手には大きい方――つまり”AZUSA”と彫られた
陽先輩のリング。
ぶかぶかに決まっているのに、わざとそれを私の左手の薬指に嵌めた。
「え――…」
「4年後、俺が卒業して再会するときまで待っとけ。」
それは、”必ず交換しよう”という誓い。
嬉しくて嬉しくて、ブカブカのリングが
薬指から落ちないよう気をつけながら
ギュッと陽先輩を抱きしめる。
――と言っても身長差がありすぎて、
まるで子供がお父さんに抱きついてるみたいになっていたけれど。
「…ありがと、陽先輩。」
「本物は…4年後な。」
「うん。」