天使はワガママに決まってる
ギュッと抱きしめ返してくれる先輩は、
とても優しくて温かくて。
周りは恋人ばかりだったから、
別にこうしていてもあまり見られなくてよかった。
普段だったら、きっと恥ずかしくて赤くなりすぎてヤバイ。
「次、どこ行くんですか?」
「あー…飯にする?先にホテルにする?」
「な…っ!!先にご飯に決まってます!」
「ふーん。じゃあ後でならいいんだ。」
「あ゛。いえいえ!そういうことでも……」
「嫌なの?」
「い……嫌、ってわけでも…」
さすがに恥ずかしくなって、
私は陽先輩からパッと離れた。
彼はまだどこか名残惜しげだったけれど。
全く、どれだけSなんだろう。
こういうときの先輩は、いつも眠たそうな目が輝いて、
よりサディステックに見える。
真っ赤に火照った頬を冷ますように
頬を両手で包み込んでいた私の指から、
突然嵌めていた大きなリングを抜かれた。
「え――」
一瞬ぽかんとした私を、そこでまた抱きしめた先輩。
何が何だか分からないまま、首元に回された手を見つめる。
(何だか今日の陽先輩、いつもより積極的…)
「――ほら。」
「あ…」
などと考えて、
また顔が爆発してしまいそうなくらい赤くなった私から
今度はあっさり先輩は離れた。
そして指さされた自分の胸元を見れば、
先ほどのリングが、チェーンに通されて
ネックレスとして輝いている。
「わぁ…っ」
「そーしてれば失くさねぇだろ?」
「はいっ」
ぶっきらぼうに笑って、
陽先輩はクシャッと私の髪を撫でる。
いつもなら嫌なその手も、今だけは幸せだ。
ふと見れば、先輩の首にも
同じように”YOU”と彫られた小さなリング。
「4年後まで絶対失くしてんじゃねぇぞ。」
「失くしませんー。陽先輩の方が心配だよ。」
「あ?何だとコラ。」
ムキになる先輩が可笑しくて、
クスクスと笑った。
呆れたように溜め息を吐く先輩も、
マフラーから見えている目元は笑っていて。