天使はワガママに決まってる
そして、どちらからともなく
また街の人混みの中へ歩きだす。
隣を歩いているはずなのに、人の多さで
少し余所見をすればすぐに離れて行ってしまいそうだ。
「チッ…人が多いな。」
「ですね…っ、わっごめんなさい!」
陽先輩に返事をする間にも、
向かい側から来た人にぶつかってしまう。
そんな私を見かねたのか、
軽く先輩は立ち止まって、私の服の袖を掴んで
自分の方に引き寄せた。
「俺の腕に掴まってろ。」
「あ…っ、はい。」
それでも先輩はどうしてか、
私の手を握ろうとはしない。
さっきまであんなに幸せだったのに
彼の少し後ろで服の袖を掴む私は、
もうすっかりブルーな気分だった。
(手だって……握ったことないのに…)
どうしても、私の手を触ってくれない先輩。
今まで、もどかしさを感じないわけがなかった。
いつも腕さえ掴んでいない分
先輩との距離は普段よりも近いはずなのに
隣で歩いていないという距離が、あまりにも遠く感じる。
「よ、陽先輩…っ」
「……?」
気がつけば思わず声をかけていて、
不思議そうに陽先輩が振り返る。
無口だけど、私のことを考えていないなんてことは
絶対にないって思えるのに。
「手…繋いでもいいですか…?」
すれ違って歩いていく恋人たちは、
みんなみんな幸せそうに手を繋いでいるんだ。
手を繋がないだけでこんなにも不安に思う自分は
何だかちっぽけに感じる。
でも、最後だから。
次はもう4年も先なんだよ?
しかし、
「やだ。」
返ってきたのは、冷たい一言だった。