天使はワガママに決まってる
何で、と思わず弱々しい声が漏れる。
ところが、悲しみが倍増しかけた私を振り返ったのは
また徐々に顔が赤くなっていく陽先輩の顔だった。
「や、まぁ…色々。」
「私も…やだ。」
ゆるゆると歩きながら、
曖昧な返事を返す先輩の手は、
細くて白くて――優しそうな手をしているのに。
不可解な行動ばかりして、何も私に言ってくれない先輩。
好きだけれど…そこに寂しさを感じてるなんて、
気がついてますか?
「理由くらい、知りたいです。」
頑として先輩に詰め寄る私。
ガシガシと頭を掻きながら、
対する先輩は小さく溜め息を吐いた。
「俺、冷え性なんだよ。」
「……ですから?」
「だから…その、あれだ。」
「あれって何ですか。」
先ほどよりも強く咎めると、
頭上にあった先輩の手が、ゆっくりと降りてきて
私の手を恐る恐る握る。
そのときだった。
「つっ……!冷たいっ!!」
まるで、氷水に手を浸したように
ビリビリと急速に冷えていく手。
それはもちろん陽先輩に握られている方の手で、
本当に芯から凍りついてしまいそうに、その手は冷たかった。
「先輩、生きてますか?!」
「あ゛?!生きてるに決まってんだろうが!」
それにしてもこの冷たさはあり得ないのではないか?
自分の感覚を疑うほどのそれは、
すぐに私の手から離れようとしたが
私は咄嗟に握り返す。
「なっ…」
「離さないでください。」
「や、だから冷てぇだろ?俺の手。」
「いいんですっ」
初めて触れた、先輩の手。
確かに生きている感覚がしないほどに冷たいが
私の手で温めてあげるのだ。