天使はワガママに決まってる
そう思って、私は歩きながら
両手で彼の手を握りしめる。
呆れたように私の顔を見ていた先輩は
照れくさそうに呟いた。
「……俺の手で、梓の手冷やしたくなかった。」
言って、また急激に赤くなっていく顔。
サドなのに、どうしてこんなにも分かりやすいのだろう。
でもそんな優しさに、また私の心は温かくなる。
「ふふっ…!」
「笑うな。」
「ただの寒がりなんだと思ってた……」
「うっせ。」
いつもマフラーを巻いている先輩。
いつまで巻いているつもりなんだろうなんて思っていたが
この手では確かに寒いのだろう。
きっと、陽先輩の手はどんな季節でも冷たい。
だから手を繋いでくれなかったんだ。
――私のために。
「手が冷たい人は、心があったかいんですよ。」
「じゃー梓の心は冷てぇんだ。」
「なっ…!陽先輩が冷たすぎるだけです!」
何て言い合いながら、
私たちは同時に笑いがこみ上げてきて
顔を見合せて笑った。
もうすっかり私の手は冷たくなっていたけれど
そんなのは全く感じない。
感じるのは、先輩の温かい心だけだ。
あったけぇな、と呟いた彼も
幸せそうに微笑んだ。
「今度からは、ちゃんと私が
陽先輩の手、温めてあげます。」
周りの恋人のように、固く指を絡ませて手を繋いで歩く。
言ったのは自分なのに、
自分の言葉に思わずニヤけてしまう私。
そんな私に、唐突に陽先輩は
「それ。」
「へ?」
と呟いた。