天使はワガママに決まってる

先ほどと打って変わって、
切ない響きをもった声。

見上げると、先輩は綺麗に整えられた眉を顰めている。


言葉数が少なくて、主語を飛ばした話し方。
意味が分からずに私は素っ頓狂な声を上げた。


「俺も…それ、嫌。」
「それって…?」


首を傾げ、見つめていると
陽先輩は何故だか黙り込んでしまって。

――どうして今日はこんなにも意味不明なことばかり言うのだろう。
いつもならズバッと上から言うくせに。


どうやらふてくされているようなので
私はまるで宥めるように優しく聞き返す。
すると先輩は、私から視線を逸らして言った。



「その…”先輩”ってやつ。」



視線は前を向いたまま、私だけが
呆然と陽先輩を見つめている状況。
チラリとこちらを一瞥し、口元を隠していたマフラーを
鼻の先まで摘まんで上げる先輩。


……照れてる。


「先輩ってやつって……」
「…1年も一緒にいんだろうが。」


「名前で呼べ。」


”陽先輩”

そう、今までずっと呼び続けてきた。
どうしても学校生活の名残が抜けなくて
(色々怖い思いもしてきたから)
ついつい敬語になってしまって。


本当は、”陽”って呼びたくて仕方がなかったのに。


まさか先輩から言うだなんて
そんなこと想像もしてなかった私は、
大きく目を見開いて。

しかしこんなにも嬉しいのに、
その反面私の口からは、捻くれた一言が出た。


「じゃあ…」

「私のこと、好きっていってください。」


私たちは真っ直ぐ見つめ合ったまま、
それ以上口を開こうとしない。
なっ…と反論しかけた陽先輩の口は、
私の雰囲気に気圧されてぽかんと開いたままだ。
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