天使はワガママに決まってる
どこかで、私の奥底のS本能が目覚めた――というか。
素直じゃなくて、何でも率直に言うのに
”好きだ”の一言はあっさり言わない先輩。
そんな彼の口から、私を”愛している”という証が
聞きたくなったのだ。
「……お前、結構Sだな。」
「そーですか?」
躊躇する先輩に、私はくすくすと笑って
陽先輩ほどじゃありませんよ、と
”陽先輩”部分を強調して言った。
「だから…先輩って呼ぶな。」
「陽先輩が言ってくれるまで言いません。」
「……てめ…」
繋いだ手は、気のせいか
先ほどよりも温かくなっていた。
それが私のおかげなのか、それとも陽先輩が緊張しているからなのか――は
定かではないが、どちらにしても心が跳ねる。
本当に言ってほしいと期待はしていない。
でも、それらしい素振りでも見せてほしい。
不安なんだ。
きっと先輩が思っている以上に、
私自身が考えている以上に。
だからどうしても欲ばかりが溢れ出て
ワガママばかりがこの口からは出る。
寂しいんだよ、陽先輩。
「愛してる、梓。」
低く、小さく、
普段から低い声をもっと下げて、
まるで呟くように陽先輩は言った。
でも――確かに、私の耳に届いた。
いざ言われると(しかも愛してる)、
照れくさいことこの上なくて
みるみる顔が手が、熱くなっていく。
この嬉しさも緊張も、多分今、
繋がれた指先から伝わってしまっただろう。
「わ…」
ヤバイ。
死にそう。
「私も……。」
「私も?」
仕返しとばかり、すっきりとした顔をした先輩は
ニヤリと口角を釣り上げて笑った。