天使はワガママに決まってる
「っ――…?!」
一瞬、俺の全てが止まった気がした。
リュックから向日葵を取り出して、
それをクルクルと指で回す綾太。
そして、その背で大きく開いた、リュック。
僕、行くね、と歩きだした綾太の背中を
俺は思わず凝視する。
衣服からリュックにまで見られる、
黒々とした――染み。
何でもない様子の綾太が、逆に不自然で。
明らかに自然体ではないそれは、まるで――
しかし、それ以上に
その開けられたリュックの”中身”をみた瞬間。
呼吸も、血液の流れも、
何もかも凍りついた。
その口から覗くそれは――
「……あや…、」
美奈の、”顔”だった。
降る雪は、どんどんと
赤黒く染まったリュックに積もっていく。
時間の流れが、遅い。
綾太は、ゆっくりと俺の方を振り返る。
「良也、」
その顔は――やはり、笑っていた。
「これが、僕らの愛の形だよ。」
愛と憎しみは紙一重。
愛しさ余って、憎さ、100倍。
それが2人の、愛の果て。
end.