天使はワガママに決まってる
そう決心して、俯いていた顔を上げる。
キュッと固く結んでいた唇は、
風で凍えるように冷たくなっていた。
震えそうな口を何とか開き、
私よりも大分高い夜久くんを見上げる。
すると彼は、驚いたように首を傾げた。
「夜久、くん。」
「どうかした?」
夏でもないのに汗が背中を伝う。
今まで生きてきてこんなに緊張したのは
初めてかもしれない。
少しでも諦めてしまうと、
もう2度と言えないような気がして
私は強張った顔で必死に笑みを浮かべた。
「わ、わたし……!」
「夜久くんのことが、」
風が、強く私たちの間を吹き抜ける。
風の音さえ感じられるほど、
辺りは静寂に包まれていた。
「好きなの……っ!」
言っ……ちゃった。
私の初恋。
たった半年想い続けた一目惚れ。
けれど、私にとってはとても
重みのある恋だった。
一方的に見つめ続けて、
少ししか喋ったこともなくて。
人気者の太陽のような彼と、
日陰で生きる私。
きっと夜久くんは、まともに私のことを
知らなかっただろう。
それなのにたまたま今日一緒に帰ることになった人に
突然告白されて――…
そう思うと、急に後悔の念が押し寄せてきた。
――なんで今言ってしまったんだろう……
そればかりが、頭の中を巡る。
夜久くんの顔――まともに見られないよ……。