天使はワガママに決まってる

「ねぇ、杏。」
「んー?」
「写真、撮ってよ。」


私は一瞬、ポカンとした。
今までよく由菜を撮ることはあったが、
写真の嫌いな由菜は
自分から撮ってと言ったことは少ない。

しかし、誰かに求められることは些細なことでも嬉しいもので
私はうんと頷いてカメラのレンズを開く。


覗いた先には、由菜が笑っていた。


「あたし、杏の撮る写真、大好きよ。」


その瞬間。
パシャッと心地の良い音が聴こえて、
カメラの中に由菜の笑顔が収まる。

私は目をパチクリとさせて、由菜を見た。
彼女はまた馬鹿みたいに楽しげに、笑っていた。


「現像できたら頂戴よねっ」


さっきの由菜の言葉が、何だか無性に嬉しくて
コクコクと何度も頷く。
微笑む由菜に、私も思わず微笑んだ。


「ありがとう。由菜。」


やっぱり、私はカメラが好きだ。


誰に何と言われても、好きな物は好き。
きっと由菜も子供が好きでたまらないのだ。


夢を追いかける理由なんて、
それだけでいいんじゃないのか?


「んーっ!ここ、気持ちいいねぇ…」
「ねぇ、由菜。」
「んー?」


木にもたれて、伸ばした太ももの上にカメラを乗せる。
握りしめたカメラの感触が、何故か懐かしかった。


「また写真、撮らせてね。」


そう言うと、由菜はいつものように高らかと笑って
もちろん、と空に叫んだ。


「有名なカメラマンになっても、ちゃんと撮ってよー?
 あたしのために予定は空けてよね。」
「はいはい」



夢を見られるのは、
ほんの短い期間なのかもしれない。
でもまだ子供の私たちには、夢も現実もないんだ。


夢が、現実だから。


でもそれでも、いいよね?


end.
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