天使はワガママに決まってる
それからの私の日々は
まるで見違えるほど
鮮やかになった。
「せなっ!おかえり!」
玄関の扉を開ければ、
今まで決して言われた覚えのない言葉。
それと共に目に飛び込んでくるのは、
自分とは違う他人の――”笑顔”
「……ただいま。」
学校に行っていた私を出迎えてくれる
ロボットのエル。
”おかえり”という言葉は、
彼が完成してから一番に教えた言葉だ。
――私が一番聞きたかった言葉。
それからは、私がどこかから帰ってくるたびに
エルはちゃんと笑っておかえりと言ってくれる。
本当、それだけで満足して幸せになれるほど
私は人に飢えていたんだな、と改めて実感した。
「どこ行ってたのー?」
「がっこ。」
「がっこ?」
「学校。勉強したりするところ。」
「へぇ~……」
そうやって会話を繰り返す度に、
エルはどんどん知識も増え、
賢くなっていっている。
それでもやはり、会話が成り立たないときもあるが
彼には何故か表情というものがあった。
(表情……なんて、どうやって開発したんだろ。)
そんな疑問を、この数日で抱き始めたが
表情が無いよりあるほうがいいに決まっているので、
まぁいいかと気にしないでいる。
――壊れたわけでもなさそうだし。
「学校、楽しい?」
思考を他のところに巡らせていた私に、
唐突のエルの疑問の声。
私は驚いて背後のエルを振り返ると、
彼はキョトンと好奇心の瞳で私を見つめていた。
きっと、エルは私がどうとかではなく、
”学校が楽しいところか?”
ということが訊きたいのだろう。
私は、再び前を向いて静かに目を伏せた。
「楽しくないところ……よ。私にとったらね。」
「じゃあ、何でせなは学校に行くの?」
「それは――……」