天使はワガママに決まってる

そう思い、ううん。とだけ返して
エルの次の言葉を黙って待つ。
エルも空気を察してか、ただ小さく呟いた。


「僕、瀬那に帰ってくるなって
 言われたのに……家に帰っちゃってた。」


今度も私は何も言わない。


「瀬那に言われたこと、破ったことなかったのに
 今日はどうしても無理だったんだ。」
「……。」
「あのとき、瀬那は怒ってたよね。」


少しだけ、視線をエルに向ける。
そのときのエルの顔が、あまりにも切なそうで悲しそうで
私は目を離せなかった。

それに、少しでもエルが私のことを
分かってくれていたことが嬉しくて、
いつの間にこんなに純粋になっていたんだと自嘲する。


「突然飛び出していったこと、
 僕訳がわからなくて……
 追いかけなきゃ、瀬那が傷ついたって……分かったのに
 足が動かなかった。」

「僕、ロボットだからさ、
 人の心が何か……分からないんだ。」


――分かってる。
そんなこと分かってるよエル。


「だから何であのとき瀬那が怒ってたのか、
 今でもよく分からない。」


それを分かってて八つ当たりしたんだ。
ちっぽけなんだよ、私。


「でも、瀬那が傷ついたってことは……
 分かった。」


そんな傷ついた顔しないでよ、エル。


――ごめんね


私はもう一度、深く心の底で謝る。


「自分でも、自分の気持ちが
 よく分からない時があるんだ。」
「……?」


エルは情けなさそうに苦笑いしながら、
私に向かって笑いかけた。


「瀬那のことは大好き。
 大切な家族だと思ってる。でもね……」


”でも”――?

私は咄嗟に、この耳を塞ぎたくなった。
この続きを聞いたら、また傷ついてしまいそう。
それを恐れて、思わずギュッと目を瞑る。


「そんなのとは違う、
 何か瀬那といるとドキドキするときがあるの。」


二人の間を、柔らかな夜風が吹き抜けた

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