天使はワガママに決まってる

その手が何だか優しくて、
私は軽く目を瞑る。
紗代ちゃんには、私が何も言わなくても
全て通じるんだ。


「あっ!おーい!」


突然紗代ちゃんが声を上げた。
パアッと顔が明るくなり、
大きくグラウンドに向かって手を振る。

その先には案の定、彼氏くんの姿。

いつも部活帰りに手をつないで帰っている2人は、
羨ましいほど仲が良くて、
私も、もし夜久くんにこの想いが伝わったら
あんな風になれるのかな……

なんて、妄想もいいところ。
喋ったことだって、ちょっとしか無い。


「うふふっ!彼、さっきシュート決めたのよ!」
「ほわー……カッコイイね。」
「うんっ!」


紗代ちゃんの、恋してる顔。
どんなときよりも可愛くて大好き。

風がまた強く吹いて、私たちの髪をかき乱した。

そのとき、グラウンドから声が聞こえて
私と紗代ちゃんは下を見る。
そこには彼氏くんと――何故か夜久くんの姿。


「ひよ!夜久くんもいるじゃないっ」
「う、うん…!」


いつも遠くから眺めていた夜久くんが
今自分の真下にいて、自分のほうを向いてるなんて。
小声で紗代ちゃんはそう言うと、
私に嬉しそうに笑いかけた。


「紗代ーっ!」
「なぁにーっ!」


彼氏くんは大袈裟というくらい
私たちに手を振りながら、
可愛らしい笑みを浮かべている。
夜久くんもその隣で、はにかんだような表情をしていた。

私に気付いてくれてるかな…?


「今日、俺らだけ早く帰るんだけど
 2人とも一緒に帰ろうぜー!」


彼氏くんは真下から大声で叫ぶ。
紗代ちゃんもそれにつられて大声で返す。


「うん、いいよーっ!夜久くんもー?」


え?

紗代ちゃんのさり気ない質問に、
私は感謝半分、緊張半分。

すると彼氏くんはうん、と強く頷いて
いいか?と私たちに尋ねてきた。


そんなの答えは決まってる!


「もっちろんー!」


私の気持ちを読んでか、紗代ちゃんは
ニヤニヤとした笑みで返す。
夜久くんは、また照れくさそうに笑った。

「でも途中で夜久とは道が違うからさ、
 ひよちゃん一緒に帰ってやってよ!」


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