天使はワガママに決まってる
困惑している俺に対して永遠子は
ずっと顔を膝に埋めたまま動かなかった。
――まさか、いつもの冗談とか?
冷めてきた頭で真剣にそう考えたとき、
永遠子はゆっくりと顔を上げた。
そして、この一言。
「あたし、寮に入るんだ。」
寒さが、一気に吹き抜けたような気がした。
カチカチとなる歯で、一瞬
彼女が何を言ったのか聞き取れなかった。
でもきっと、いいことじゃないのは
何となく――想像がついていたけれど。
「え、何て?」
俺のこの言葉に、永遠子は
呆れたように大きく溜め息を吐く。
溜め息は一瞬にして白くなり、消えた。
「あたし、寮に入るの!!」
まるで頭を打たれたように、
脳内でその言葉がこだまする。
さっきまであんなに幸せに浸れたのに
何で言葉一つで全てが変わってしまうのだろう。
永遠子の言っていること――それはつまり…
「会えなく、なるってことか?」
俺の質問に、彼女は小さく頷いた。
自分で言ったことなのに、
涙腺が緩みそうになる。
信じられないが、この時期だ。
――ありえない話ではないのだ。
「他の県の、私立に行く。」
「私立……。」
「推薦でね、陸上の。
全寮制なの。結局ここからじゃ…通えないし。」
永遠子は、短距離で全国上位に入るほどの
実力の持ち主だ。
俺でもいい勝負をするくらいに。
誰よりも彼女の実力は知っているし、
夢だって、知っている。
「そっか」と小さく俺は呟いて
思わず俯いてしまった。
応援したいのに、出来ない自分が情けない。
「頑張れよ。」
「…うん。」
ずっと、永遠子とは離れる気がしなかった。
俺たちは共にいる時間が長すぎたんだ。
だから隣にいるのが当たり前で
心のどこかで俺は、何となく。何の根拠もないのに
高校だって一緒に行くような気がしてた。
そんなこと、あるはずがないのだ。