天使はワガママに決まってる

思わず口を閉ざしてしまう俺。
何かを言わなければ、
永遠子が不安に思うと分かっていても
何と声をかけたらいいのかが分からない。

…情けねぇ。


「がん、ばれよ。」


何の意味もなく、もう一度言う。
永遠子も小さくうん、と頷いた。
顔が見られない。
俺たちの視線は合わないまま
時間だけが過ぎていく。

それからしばらくして、
ようやく永遠子が顔を上げた。
視線を感じた俺は、彼女の方を振り向く。


「今までさ、ずっと宮塚と一緒だったから――
 何か、いないのが考えられなくて。」
「うん…。」
「一人で、やっていけるのかな、って…思った…。」
「…そか。」


俺が欲しい、なんて言った理由が
何か分かった気がする。

永遠子は不安なのだ。
俺じゃなくても、知り合いのいない世界に飛び込むことが。
少し期待した自分がいて、
何だか情けなくて、微笑んだ。


「大丈夫だ。また、帰ってくればいいだろ?」
「簡単に帰って来れないよ。」
「じゃあ俺がその学校に入ってやろうか?」


ようやく笑えた顔は、きっと泣きそうで引きつっていたと思う。
でもそれは永遠子も同じだったから
俺は声を出して笑った。

俺のふざけた提案に、永遠子はいつも通り
「女子校だって」と大笑いした。
――やっぱり、元気じゃないと永遠子じゃない。


俺たちに降りかかる雪は、
先ほどよりもきつくなっていた。
これが雨に変わったら、泣いていても分からないのに。

そんなことを考えると
ただただ俺たちに降り積もるだけの雪が
今は憎らしかった。


「自分で決めた、道だから。
 あたし――頑張ってみるよ。」
「……おう。」
「宮塚も、頑張れ。」


そう言われて、俺は言葉を返せなかった。

俺は今、何を頑張っているのだろう?
何を、頑張るべきなのだろう?
考えれば考えるほど、切なくなるばかりで。

告白さえ、出来ないのに。

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