天使はワガママに決まってる

知っているスポーツブランドのロゴが入った
青いタオル。

突然手渡されてどうしたらいいのか困っていると、
焦れたのか、有明くんが私の手から奪い取り、
ゴシゴシと私の顔を拭う。


「汗臭いけどごめん。顔、ほんとヤバイから。」
「う…っ、ぶはっ」


突然現れたほとんど見知らぬ男の子に
顔拭いてもらってるってどうなの?

と自分の無防備さと不甲斐なさに落ち込むが、
有明くんに裏がありそうだとは何となく思えないし
今の私にとっては、彼の優しさが心に染みた。


「はい。とれたよ。」
「あ…ありがと。」


ようやく顔からタオルが離れ、
目の前には微笑む有明くん。


「何で…?」
「ん?」
「私に…優しくしてくれるの?」


ほぼ初対面なのに。

と言いたかったが飲み込んだ。
向こうは私のことを知っているみたいだったし。


薄暗い階段で、一人泣いている女の子なんて
どうみても怪しいだろう。
気に留めたとしても、顔なんて拭いてくれる?

純粋に気になって、私はおずおずと尋ねた。
一瞬目を丸くした有明くんは、また優しい顔に戻る。
童顔だけど、真っ直ぐ私を見つめる瞳に吸い込まれそうだった。


「何で泣いてたのかは聞かないけど……。
 まぁ気になるもんだよ。」
「そ…そう?」
「うん。」


曖昧に返されて、濁された。

でも理由を聞かれなかったのはありがたくて
きっと気が付いていたと思うけど
そのことについて何も言わない彼に本当に感謝した。

話し出すと、また泣きだしてしまいそうだから。



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