天使はワガママに決まってる
彼の、優しくて純粋な瞳が
どうしても見られない。
優しさに甘えて、有明くんを利用しようとしている
自分が、馬鹿みたいだった。
でも、今更取り消すなんてことも出来ない。
だって――あの涙を拭ってくれた手が
あまりにも優しかったから。
もしかしたら、本当に
俊くんのことは忘れられるかもしれない。
――そんな浅はかな考えが、私の心を支配してしまった。
「ほ、本当に?!」
「うん…。」
ごめんね、有明くん。
本当にごめん。
お願いだから、そんな嬉しそうな顔しないで。
私の心が、痛むから。
「俺、ほんと嬉しい!!」
絶対無理だって思ってたー!なんて、
無邪気に有明くんは喜んだ。
私もつられて微笑む。
これからの毎日、莉奈と俊くんを見て苦しむこともない。
だって私にも、愛してくれる人がいる。
大丈夫、苦しみも悲しみも――すぐ、消えるよ。
「きっと、好きになるからねっ」
「うん、待ってる。」
帰ろっか、と呟いた有明くんに手を差し出されて
私はその手を握った。
薄暗い階段を下りて、夕焼けに染まりつつある
誰もいない廊下を二人で歩く。
繋がれたままの手から感じる温もりに
悲しみも溶けてしまえばいい。
「有明くん、じゃなくて”祐唯”って呼んでよ。」
「じゃあ私も”柚子”ね。」
笑いあっても、始終引きつったままだった。
泣いてなかったらきっとばれていたと思って
この泣き顔にも、少しだけ感謝。