天使はワガママに決まってる
「いいの、今日は。」
そう素っ気なく一言で返し、莉奈は鞄を手にした。
私もそれにならって慌てて鞄を掴む。
「ごめん、有明くん。柚子借りてくね。」
祐唯の顔も見ずに、彼の横を通り過ぎていく莉奈を
私は小走りで追いかける。
振り返りざまに驚いた表情の祐唯が見えて、
軽くごめん、と手を合わせた。
――莉奈の様子が、いつもと違う。
そんな高まる不安の中、私は莉奈と帰り道を歩いている。
ほぼ飛び出すようにして学校から出てきた私たちだが、
今までほとんどまともな会話を交わしていない。
私に非があったとは心当たりがないし、
じゃあ俊くんと莉奈の間に何かが――?
「ね、ねぇ…莉奈、今日おかしいよ?
どうかしたの?」
気まずい雰囲気に耐えられなくなり、
私は遠慮がちに、俯く彼女の顔を覗き込んだ。
すると莉奈はゆっくりと顔を上げ、
私の瞳をジッ…と見つめる。
そして無表情だったその顔はみるみる崩れ、
ボロッと大粒の涙が零れる。
「ゆ、ゆずぅ~~」
「えっ、わ、莉奈?!」
学校からは随分離れたので、
生徒も少ない通学路。
そのコンクリートの道に、莉奈は泣き崩れるように
しゃがみ込んだ。
周囲の人々の目も憚らず、
大声で泣き出す彼女を、私はオロオロと
背中をさするだけ。
「りなぁ…どうしたのよ…」
「ひっ、っく…ひっ」
しゃっくりを上げ、喋れる状態ではない莉奈を
私はそっと立たせて、その肩を抱える。
近くの錆びて古びた公園に、足を進めた。
自販機でココアを購入し、泣きっぱなしの莉奈に手渡す。
熱いその缶を握りしめたまま、
しばらく莉奈は何も話そうとはしなかった。