天使はワガママに決まってる
――それから、数分だったか数十分だったかの時が流れ、
ようやく莉奈の呼吸が落ち着いてくる。
ぬるくなってしまったであろうココアを
ありがとう、と小さく呟いて飲み干した。
そして缶を眺めながらふぅ…と息を吐く。
「大丈夫?」
「ん…もう落ち着いた。ごめん、柚子。」
「ううん…。」
ズズッと鼻を鳴らして、
莉奈はやっと私に向き合ってくれた。
真っ赤に泣き腫らした目が、
その切なくて悲しそうな表情が、
数日前に泣いた私に似てて――
思わず、私の瞳にも涙が浮かぶ。
「…聞いてくれる?あたしの話。」
「うん。もちろん。」
ココアの缶を親指で弄る莉奈は、
まるで言うのを躊躇っているように見える。
私も強制しようとは思わなくて、話し出すのを待った。
「昨日、俊の家に初めて行ったの。」
「うん…」
「今まで一度もいれてくれようとしなかったのに、
あたしがちょっと気まぐれで頼んだら……いいよって、言ってくれて…」
私はじっ…と莉奈の顔を見つめる。
莉奈はココアの缶を一点で見つめたまま
唇をきつく噛みしめている。
「あたし、すっごく嬉しかったの。」
「俊が、あたしのこと本気で好きになってくれたんだと思って……
浮かれてた。」
そこで、私の頭は一瞬混乱した。
”本気で好きになってくれた”?
つまり、それまでは俊くんは莉奈に対して本気じゃなかったの?
OKして、もう何日も付き合ってるのに――?
その私の疑問は、自然と言葉になって出ていて
震える声で莉奈に尋ねた。
莉奈はちらりと私を一瞥して、うんと頷く。
「俊くん……本気じゃなかったの…?」
「うん。あたしが告白したとき…言ったの。」
”いいよ。付き合う。”
”でも、”
”多分本当に好きになれないかもしれない。”