天使はワガママに決まってる
綺麗にシーツの敷かれた真っ白なベッドの上で
上靴を脱いだ私は膝を抱える。
その膝に顔を埋めて、
ゴチャゴチャに絡まった脳を整理しようと、
大きく深呼吸をしてみる。

息を吸い込みすぎた肺が、
キリキリと痛んだ。


「何、考えてんだろ……あの子。」


そう呟いた時、ガララと扉を開ける音がして
ぴったり閉じられたカーテンの向こうから
ほんのりと鼻につく薬品の匂いが漂ってくる。
それと同時に数人の男子の声が聞こえた。


「……ぃ、大丈夫かよ~」
「珍しいな、”俊”がヘタるなんてさ?」
「うっせ…」


今――

(俊って…!)

どうしてよりにもよってこんな時に。
運が無いにもほどがある。
ベッドの上で息を殺しながら、徐々に近づいてくる
三人の声を待った。


「先生いないな。」
「どーする俊?」
「とりあえず…寝る。」


保健室にはベッドは二つ。
しかも向かい合っているので、このままでは
必然的に私の目の前に来ることになる。

バクバクと波打つ心臓を抑えるかのように、
ギュッと胸元を掴んだ。
閉じられたカーテンの向こうに、影が見える。


「あ、一個空いてねぇじゃん。誰か寝てんのか?」
「ちょ…俊、肩貸すから。」
「悪い…」


ボスッとベッドに腰掛ける音がして
三つの影が動かなくなった。
珍しく俊くんが体調を崩したらしく、その声が弱々しい。

布一枚隔てた向こうにいる彼らの話を
何となく聞きながら、
身動きもとれず私は固まっていた。

莉奈と付き合うようになって――もう随分喋っていない。
とても久しぶりな感じがするのに、
手が届かない。
でも私だとバレたらそれはそれで大変であり、
ただ私は息をひそめた。


「…じゃ、俺ら行くわ。」
「おう…悪いな…」
「寝とけよー俊。」


そう言い残し、付き添いであろう二人がその場から離れていく。
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