紅芳記
「左様に、ございますか。」
「当分、京より戻れぬやも知れぬ。」
………淋しいなど、言ってはいけないわ。
そう思い殿の胸にそっと擦り寄り見上げると、殿の顔が赤いのがわかりました。
あまり明るくはないのではっきりとはわかりませぬが…。
それでもしばらく会えぬなら、今はこうしていたい。
愛しい方の存在をしっかりと感じ、身体に刻み込みたい。
今生の別れではないと頭ではわかっていても…。
どうしようもなく淋しいのです。
「わしが上洛している間、留守を頼む。」
「はい…。」