紅芳記
あぁ、やはり殿の正室の座に相応しいのは、このような、姫。
凜とした、見事な、姫君。
こんなにも素晴らしい御方を側室に落としてまで、正室の座に着いているなんて…。
いくら義父上や関白様の決められたこととはいえ…。
己が身の上を、空恐ろしくなりました。
「奥方様。」
「何でございますか?」
「奥方様は三河や浜松の城下のことにお詳しいと、お伺い致しました。
是非、私にも城下のことをお教え下さいませ。
何分、上田から離れたことのない身でございます故。」
「はい。」
昔、駆け回った城下のことを思い出しながら夢姫様に微笑むと、夢姫様も微笑み返して下さいました。
やっぱり、夢姫様は素晴らしい御方。
私に気まずい思いをさせないよう、当たり障りのない話題をごく自然に、それでいて図々しくなく出せるなんて。
私にはとても無理だと思いました。