紅芳記
「姫。」
後ろから声が掛かりました。
はっとして振り向くと、お母上様が立っておられました。
「お、お母上様…。」
「もう、殿はすぐそこにおられるのですね…。」
「…はい。
ところで、お母上様はなぜ此処に?」
「姫が城の入口まで駆けて行ったと聞いて、私も此処に来たくなったのです。」
お母上様は、柔らかく微笑まれました。
「え…。」
「仲橋やふじが嘆いておりましたよ、いつまでもじゃじゃ馬な姫様だと。」
「それは…っ。
し、しかしっ!
お母上様もこちらへ来られたではありませぬか。」
「あぁ。
それもそうでしたね。」
二人で顔を見合わせて笑いました。