紅芳記
「本日の朝方、殿に呼ばれましてな。
奥方様が上洛したいと仰せになったら上洛させるよう申し使っておりました。
まさかとは思いましたが、さすがは殿にございますな。
奥方様のことをよくわかっていらっしゃる。」
冗談とわかっているのに、恥ずかしくて俯いてしまいました。
でも、殿が私のことをわかっていてくださっている。
それが、どうしようもなく嬉しい。
「殿より十日後に肥前国名護屋に向かうと聞きました。
途中、京にも寄るのでしょう?
私がそれに付いていく形とすれば、さほど人の手を煩わせることもなかろう?」
「はい。
その通りにございます。
そう致しましょう。」
「頼む。」
「ははぁ。」
画して、私の上洛が決まりました。