紅芳記
居住まいを正し、向かい合います。
どちらも口を開こうと致しません。
重い沈黙が続きました。
「…沼田には戻らぬ、とな?」
沈黙を破ったのは殿でした。
険しい表情でこちらをじっと見つめていらっしゃいます。
「…はい。」
少しばかりか細い声で答えました。
「それは、何故じゃ。」
当然ながら、痛いところをつかれました。
「戻りたくないが故でございます。」
揺らがぬよう、ひとつひとつの言葉を丁寧に落とします。