紅芳記
「そなたには、さぞや寂しい思いをさせておるであろうな。」
え?
「そ、そのようなことは…。」
気をつけたはずなのに、ぐらぐらに言葉が揺れていってしまいました。
いたたまれなくなり、俯きました。
「戻りとうないならば戻らずともよい。
そなたの、小松の好きに致せ。」
「あ、ありがとう存じます…。」
こんなにあっさりとお許しが出るなんて。
もっと反対されるものと思うておりましたのに。
これはこれで、寂しいと言いますか、なんと言いますか…。
反対されたい訳ではなかったけれど、私は殿にとってどこに居ようとどうでもよい存在なのではとまた後ろ向きな考えが生まれてきてしまいました。