紅芳記
「ただ…」
「ただ?
ただ、何でございましょう?」
「どうしても京屋敷に留まるならば、屋敷内より一歩たりとも外へ出てはならぬ」
「なっ…!」
「沼田には、奈多を替え玉として送る。」
「奈多を?
何故でございます!?」
「豊臣や他の諸大名に付け入る隙を与えぬためじゃ。
豊臣は恐らく世継ぎ問題で大揉めに揉める。
太閤殿下に子が出来ることは最早無いに等しいが、そういわれていた矢先に鶴松君が生まれた。
それに比べ秀次様には御子が大勢いらっしゃる。」
「太閤様に御子が生まれても、秀次様の御子が家督を継ぐことになっても、内輪揉めがおこりうる、ということにございますか?」
「左様。」
徳川屋敷でこのように真田の見解を言い合うのもどうかと思いましたが、殿が軽々しく大切なことまでは申されぬでしょう。