紅芳記
「殿の…、信幸様の正室はこの私!!
そなたのような者は、私が今この場で成敗してくれようぞ!!!」
そう叫び、私に向かって振り下ろされる懐剣。
私は腕に覚えがあり、身構えました。
しかし、突然夢の御方様の動きは止まったのです。
「奥方様!!
お逃げ下さいませ!!」
「世都!
そなた、何を!?」
世都が夢の御方様を押さえ付けていたのです。
「おのれ、何奴じゃ!!?」
夢の御方様は鬼のような顔で叫び、世都を懐剣で刺そうとしました。
しかし、野武士にも負けぬ強さを持つ世都に懐剣を突き立てることなど姫君に出来ることではありませんでした。
「奥方様、早くお逃げ下さい!!」
世都はその場から動かない私にそう叫びました。
私に逃げるつもりはありません。
「世都、夢殿を放しておやり。」
「なっ…!」
「私がお相手致そう。
世都、放せ。」
「しかし!」
「それでは夢殿の気が済まぬ。
それとも、私が『姫君』に負けるとでも?」
そういうと世都は渋々、夢の御方様を放しました。
「この女狐!!
もう許さぬ!!!」
再び私に懐剣が振り下ろされました。
私は素早く懐剣をもつ手を弾き、懐剣を落としました。
「香登。」
それを手にとり香登に預け、夢の御方様の衿元を掴むと、
「えいっ!」
私は思い切り彼女を投げ飛ばしました。