紅芳記
「今日は何用があって参った。」
私は厳しい声で問いました。
夢の御方様は少し躊躇われ、
「………先の数々のご無礼、大変申し訳のう存じまする。
お許し頂けるようなことではござりませぬが、どうぞ寛大なお心で、平に、平にご容赦下さいませ。
この通りでございます。
どうか、どうか…。」
と再び深く頭を下げられました。
「なんと…。」
侍女達も驚いています。
夢の御方様は更に深く深く平伏しました。
「…わかりました。
これからは心を入れ替え、殿の御為、真田家の為になるようにするのであれば、この件は不問とし、許して差し上げましょう。」
「お、奥方様…!?」
「…まことにございますか?」
夢の御方様の声はもう涙混じりでした。
「はい。」
「かたじけのうございます。
ほんに、ほんになんとお礼を…」
「礼の言葉はいりません。
そのかわり右京殿や家臣達にも、謝って頂きたい。」
「もちろんにございます!」
「でしたら、早くお行きなさいませ。
この言葉が嘘にならぬよう努めることです。」
「はい…!!」
そして夢の御方様はそのまま右京殿、矢沢殿ら家臣にも謝罪したと香登が伝えてくれました。