紅芳記

夜、殿は寝屋でもまだ思い出し笑いをされています。

「そなたは凄いの。
あの夢に謝らせるばかりか、頭を下げてまで許しを請わせるとは。」

「殿!
その話しはもう良いではございませんか!」

殿は面白いと言わんばかりに笑われ、そのまま唇を落とされました。

そして腕をのばして私を抱き寄せ、語り出されました。

「夢はの、わしが元服した折に叔父上と父上が縁談を決めて嫁いできたのじゃ。」

「…存じております。」

「じゃがな、わしはまだ幼く、夢はいくつも年上で気位が高く、わしは夢に馴染めなんだ。」

「え?」

「いよいよ仲も冷めきっていたちょうどその時、そなたとの縁談が持ち上がった。」

「では…」

「わしはそなたを一目見たその時から、そなたを愛しておった。
無論、夢はわしにとって初めての女子故、大切にはおもう。
しかし、真に愛しいと想う女子は小松一人じゃ。」

「殿っ…!
私も…。
私も殿を心より愛しておりまする!」

私がそう言うと、私を抱きしめる殿の腕の力が強くなりました。

…幸せだ。

私はこの上ない幸せ者でございます。

愛しい殿方と気持ちが繋がるということが、これ程までに幸せなことだったなんて。

この幸せがいつまでも続くよう、私は殿の腕の中で願いました。


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