紅芳記
───明けて文禄三年。
「信繁殿が、ご上洛?」
「ああ。
太閤殿下は信繁を人質として京においておきたいらしい。
今までは許しを得て度々上田に戻れていたが…。
もう、無理であろうな。」
「そんな…」
太閤様は真田家に不信感を強め、人質を差し出すよう強く要求されてきたのです。
「それから…」
「まだ、何か?」
「小松も上洛せよとのことじゃ。」
「私も?」
「何でも、北政所様と淀の御方様が強くご所望らしい。」
政所様と御方様のご所望ならば、断るわけには参りません。
私も再び上洛となるでしょう。
「私も、もう沼田には帰れぬのでしょうか…。」
「それは大丈夫じゃ。
母上が政所様を説得して、数ヶ月の滞在で済むよう計らって下さった。」
「…お母上様が。」
京に着いたら真っ先にお母上様にお礼を申し上げなくては。
「承知いたしました。
上洛致します。」
「うむ。
わしも小松と京へ上ろう。」
それから数日後、私は再び上洛のため沼田城を発ちました。