紅芳記

婚礼の日も迫ってきたある日の夜、私は殿と共に寝屋で休んでおりました。

「しかし、あの頑なだった利世殿をよくぞ決心させたものじゃ。」

「私は少しばかり利世殿が羨ましゅうございます。」

「どういうことじゃ。」

殿はムッとされますが、私は気づかないふりをして

「ふふ、知りとうございますか。」

と冗談めして言いました。

「いや、気になっただけじゃ。」

「素直でございませぬな。」

「…知りたい。
言うてみよ。」

私はあの日、源次郎殿に聞いた言葉をお伝えしました。

内緒と言われたような気も致しますが、まあ、この際良いとしましょう。

「ほう、源次郎もやりおるの。」

「内緒にございますよ。」

「わかった。」

「…殿は、言うては下さらぬのですか?」

私はわざと近くから殿を少し見上げながら聞きました。

「言うて欲しいか?」

「言うて欲しゅうございます。」

私がそう言うと、殿はニヤリとされ、私を抱き寄せられました。

「へ…?」

突然のことで困惑しておりますと、耳元で甘い言葉を囁かれます。

そして私と少し離れたかと思うと、唇を次々と落として参られました。

「と、殿!
これは、その…。
反則にございますわ!」

「言うて、欲しかったのであろ?」

「それはそうですが…。」

「そのように赤い顔で逆らわれても怖うないのう。」

「なっ…!
それは殿が…。」

「わしが、何じゃ?」

ぐいっと顔を寄せられ、手は何故か着物の前から侵入してきています。

これでは反論しようにもできません。

私は仕方なく、この夜は殿に降参致しました。


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