紅芳記
数日後──。
「源次郎、しゃきっとなさいな。
もうすぐ利世殿との婚礼の儀なのですよ、利世殿がいらっしゃるのですよ。」
「母上、それくらい私も存じております。
でも袴ってあまり好きでのうて…」
「殿方が袴を履かず何を履きますか!
ならば貴方は女装でもしていなさい、きっと利世殿はすぐにでも愛想を尽かしましょうね!」
そう、本日は源次郎殿の御婚礼なのです。
京の御前様をはじめとした奥の者一同、この日の為にいろいろ支度を重ねておりましたのに、源次郎殿は儀礼的なものを嫌い、どこと無く面倒臭そうです。
「源次郎ならばさぞ似合うであろうな。」
大殿は呑気に冗談を飛ばし、ガハハとお笑いになってしまわれました。
「確かに、似合う。」
殿まで大殿に悪乗りされ、それが京の御前様の逆鱗に触れたようで、京の御前様は男衆三人を並べお説教を始められました。
京の御前様は、御婚礼は女子にとって一世一代の大事とお考えの故に、三人のご様子が気に障られたと思われます。
ふと、廊下の方が気になり目を向けると、京の御前様付きと思われる侍女が来たのですが、このただならぬ様子に驚きおどおどしています。